部屋の扉を開けると、護が自分の部屋に戻ろうとしている所だった。
直桜の姿を見付けた護が、開きかけた扉を閉じた。
「すみません、起こしてしまいましたか?」
「いや、寝てなかったよ。……清人は、帰ったの?」
事務所の電気が消えているように見える。
「ええ、本部に戻らなければならないからと。直桜を心配していましたよ」
「そっか」
よく考えたら、清人と真面に言葉を交わさず帰してしまったかもしれない。
(俺、相当メンタルボロボロになって帰ってきたんだな)
改めて、自分が酷い状態だったと自覚した。
「あの、直桜の部屋に行ってもいいですか?」
「え? うん。別にいいけど」
心なしか、護の表情が暗いし、引き攣って見える。
部屋に入ると、護に腕を引かれて、抱き締められた。
「護? どうした……」
「直桜にだけは、知られたくありませんでした。あの男とのこと」
心臓の鼓動がゆっくりと速くなっていく。
直桜を抱く護の指先が、小さく震えているのが分かった。
(もしかしたら俺以上に護の方が、打撃が大きいのかもしれない)
直日神と話したお陰で、帰宅直後よりは気持ちが落ち着いた。何より、直日神が護の名前を憶えていた事実の方が、直桜にとっては驚きだったし大事だった。
(護が詰まらない過去と言い切った槐との関係なんか、小さく感じる。けどやっぱり護にとっては、違うんだ)
槐の前で平気そうに振舞っていたのは、直桜の動揺を煽らないためだった。そう考えた